没個性を称えよ、個性を解放せよ

ベッドに鎮座する人体風の奇怪なオブジェの落書き

ロシア留学24日目 授業終了@大学

今日は最後の授業の日だった。最後の時限にホールに集まり、各クラスごとにロシア民謡の合唱や詩の朗読、劇を行うという形式で、自分たちがこの一か月どれだけロシア語を学んできた(ということになっている)か表現した。

 

我々のクラスは日本でもよく歌われているロシア民謡「一週間」を合唱した。ところがこの曲、本場ロシア人にはあまり有名ではないらしく、最初の反応はウケている感じではなかった。その次に(尺稼ぎで)2週間目を追加し、この大学でのおもひでを口々に叫んだ。身も蓋もなく言うと、失敗談と愚痴だ。これはちょっとウケた。

 

 

失敗談と言えば、授業でのロシア語使用はかなり失敗した。多発する文法ミス。貧弱な語彙。ぶきっちょな発音に、全く理解してないリスニング。

 

こんなんで「あなたは192時間のロシア語の授業カリキュラムを修了しました」と認められていいのかと言われると、答えに窮する。私に身に着いたのはこの中の12時間分くらいだろうからだ。

 

それでも、ロシア語が嫌になるわけではない。ロシア語はちゃんと面白い。今日は授業終了ということで、ロシア語にどういう特徴があるのか綴っていこうと思う。

 

1.文字

未ロシア語(またはロシアに近い地域の言語)学習者から見てまず目につくのは、ロシア語に用いられている文字だろう。アルファベットに似ているようで、読み方が全く違ってたり、そもそも形が意味不明だったりする。д←この文字は日本の顔文字でよく見かけられるかもしれない。

 

この文字はキリル文字という一種のアルファベットである。昔々ロシアにキリスト教がもたらされたとき、当時のロシア人の言葉で宗教関係の文書を記述するためにすでに流入していた文字を改造して作られた、ギリシャ文字をベースした文字だ。このキリスト教ギリシャ由来の宗派であるため 、ベースがギリシャ文字になった。この辺の歴史を知らない人がギリシャに行ったあとロシアに行くと、同じ文字が使われていて驚くらしい。

 

キリル文字には33種の文字がある。ラテンアルファベットより文字数が多いため、比較的発音と文字が1対1対応になっている。例えば、英語で"T"と書く時、この文字は次の母音により「テー」「チェー」「ツェー」という3種類の発音を持ちうる(次がeの場合)。しかしキリル文字の場合、「テー」なら"Те"「チェー」なら"Че"「ツェー」なら"Це"と言うように、発音に対し文字がわりかし決まり切っている。これゆえに文字とその発音さえ覚えてしまえば読むことは容易なのである。

 

2.文法

我が大学のスラヴ文学教授によると、ロシア語は古代ギリシャ語文法の暖炉の火を灯し続けている言語だそうだ。わかりにくいので解読すると、古代ギリシャ文法からそんなに変わっていないということだ。

 

ロシア語はとかく文法事項が多い。この点がロシア語が難しく見える所以だろう。まず名詞に男性中性女性という3つの性がある。それぞれに複数形がある。形容詞はそれぞれの性+複数形に対応して変化する。それだけでは終わらず、名詞と形容詞はそれぞれの性+複数形に対し6つの格を持つ。動詞は動作主の人数と人称により2種類ある6つの変化を持つ。過去形は性に対応する。

 

簡単に整理すると、名詞は3(性)×6(格)+3(複数形の性)+6(格)=36種類、形容詞も同様に36種類、動詞3(性)+6(変化)×2(動詞の種類)=15種類、計87種類の文法事項を最初に覚える必要がある。代名詞の変化を合わせるともっと増える

 

しかし、これは一つ一つが異なる形をしている場合だ。

 

ロシア語の語の変化には人称代名詞の変化をベースとした一定の法則がある。なので実は最初に人称代名詞を抑えてしまえば一般名詞や形容詞の変化はすぐに覚えれたりする。これはおそらくロシア語が、音に文字を当てはめていった言語であるであろうためだ。「言い方」を「文法」と言い換えるから難しく見えるだけなのだ。格の違いなんて日本語で「わたし」と言うか「わたし」と言うかの違いくらいでしかない。

 

文章の規則は日本語に似ていて、並べ方に縛りがない。なので思いついた順番に並べていけばいい。格さえちゃんと変化させていれば、誰の行為なのかは単語が示してくれる。疑問形や命令形など、文章の規則は総じて簡単である。格をパッと合わせるのだけが難しい。

 

文法は最初だけ大変だが、ちょっと頑張って覚えてしまえば「ロシアの広大な平原のように、平らで簡単に見えてくる」らしい。なんつー比喩だ。

 

3.言葉

キリル文字で書いてあるのでぱっと見わからないが、ちゃんと読んでいくと英語でも聞くような単語が多い。例えば英語の"Lecture"もロシア語の"Лекция" も、どちらとも「レクチャー(レクチヤ)」と読み「講義」という意味の単語である。このような単語が私が見てきた中では20%くらいある。

 

残り80%の単語はロシアオリジナル単語だが、これもやはり特徴がある。とにかく何でもかんでも接頭辞・語幹・接尾辞の組み合わせでできている。なので単語を一つ一つ覚えるよりもそれら単語要素の意味を覚えていくと、結構推測しやすいものが多い。

 

ただロシア語は何でもかんでもくっつけることに抵抗がないのか、やたらと長い癖に日本語で言うとそんなに大した意味でもない単語が多い。月曜日と言うだけで"Понедельник(パニジェールニク)"である。「一週間の次」という語の組み合わせから月曜日という単語ができる。これは短い方で、読む途中で息切れするものさえある。

 

4.発音

上に発音ははっきりしていると書いたものの、ロシア人が話すロシア語を聞き取るのはロシア語コミュニケーションを専門にしている人などでない限り非常に困難である。なぜなら彼らはどこで切れるのかわからないロシア語単語を大阪のおばちゃんとタメ張れるような早口で喋ってくる。そのくせ格変化もほぼ正確。それで普通の速度だと言うから恐ろしい。

 

なので道端やレジ、チケット売り場などでロシア人と話すとき、ものすごく頭を使う。授業中は先生も手加減なしの早口で話してくるので、2コマ受けるだけでものすごく腹が減る。日本で聴かれているのんびりしたロシア民謡の中にだって、実はめちゃくちゃ言葉が詰め込んであるのだ。

 

 

まあこんなもんだろう。結構ロシア語の難しいところを強調してしまった気がするが、やってみると無理というほどではなかったりする。ロシア語を学ぶとロシアで役に立つのは勿論、SNSのアカウント名にちょっとキリル文字を使って他人と違う自分を演出したい人の真名を読めるようになったり、わざわざロシア語を学ぶような変態に出会うこともできる。流石にもうちょっとましなことを言うと、文法はすぐ覚えられるので語彙さえ詰め込めばおそらくすぐドストエフスキーでもチェーホフでも原典で読める。

 

 

 

学ぶ動機も好みも人それぞれだとは思うが、ロシア語は中々に面白い言語だ。何か新しい言語の学習を始めたい方、第二外国語の登録に迷っている大学生諸君、ロシア語はいかがでしょうか。